医療機器AIプロダクトのリデザイン

臨床実用性と信頼性向上を両立した設計で新規導入に繋がった事例

医療AIアプリ LocoStep のUX/UIリデザインプロジェクト。整形外科クリニック向けの歩行分析アプリで、理学療法士が患者の歩行動画を撮影し、AIで歩行機能を評価するiOSアプリです。保険償還の対象となり経営メリットを持つサービスでありながら、商談段階での停滞が続いていました。

役割
UX/UI デザイン 
期間
8週間
チーム
PdM、iOSエンジニア、MLエンジニア、営業、薬事
内容
UX/UI デザイン、ユーザーリサーチ 

プロジェクト概要

スコアベースから実測値ベースへの再設計

リサーチを通じて、商談停滞の一因として結果画面における「臨床現場での実用性不足」と「医学的根拠不足による信頼性の欠如」が見えてきました。

そこで、結果画面のコンセプトをスコアベースから実測値 × 医学的エビデンスに転換し、さらに指標を拡充することで、全身を包括的に評価できる体験へ刷新しました。

このシフトにより、ビジネス成果と長期的な戦略の判断材料、信頼基盤を実現しました。

主な成果

6+
新規導入
30%→45%
商談時の導入確度
4+
大学との共同研究
20%→57%
次フェーズ進行率
57%→5%
商談休止率
6-7件
インタビュー
6+
ステークホルダー
4→10+
拡充指標数
5-6
タッチポイント設計
  • 過去に導入見送りとなっていた医療機関への再提案で、改善後バージョンが評価され、リリース後2か月で6件以上の導入 につながりました。
  • 改善後は導入確度・次フェーズ進行率・商談休止率など、複数要因があるものの商談関連指標に改善が見られました。
  • 営業メンバーからも、「プロダクト改善によって導入確度が上がった感覚がある」 という評価が得られました。
  • 改善方針は 大学との共同研究 にもつながり、論文発表やエビデンス構築を進める信頼性を獲得してくという中長期的な戦略基盤となりました。

ビジネス課題

このサービスはもともと製薬企業との共同開発を経て事業継承されたサービスでした。KPI未達が続く中で、機能改善ではなく、プロダクトコンセプト自体の見直しが必要な段階 に入っていました。

PdMと営業停滞要因を整理した結果、プロダクト開発側で優先的に解決すべき課題として、以下の2点を仮説設定しました。

臨床現場での実用性不足
医学的根拠不足による信頼性欠如

以前の結果画面は、歩行速度・左右差・ふらつき・リズムといった4指標のスコア表示が中心でした。シンプルで理解しやすい一方、病院での利用や導入判断の観点では、専門性・説明可能性・納得感が不足している 状態でした。
理学療法士にとって「なぜそのスコアになるのか」が説明しにくく、理学療法士の中でもスコアへの納得感がそれぞれ異なり、患者への説明や院内での導入検討に必要な信頼感を十分に支えられていませんでした。

見た目のわかりやすさではなく、現場で使われ、説明され、信頼される結果体験になっていないというビジネス課題がありました。

なぜ難しかったか

この案件の難しさは、医学的な信頼性を高めながらも、診断結果のように見せてはいけないという強い制約の中で、結果体験を再設計しなければならなかったことにありました。

分かりやすさと専門性のトレードオフ

既存のスコア表示はシンプルで、患者にも説明しやすい一方で、AIが「解釈済みのスコア」を出力していた点に課題がありました。スコアは理学療法士や医師にとっては算出過程や比較対象が見えにくく、判断材料として使いにくい構造になっていました。
一方で、実測値ベースの結果表示へ変更することによる以下のような課題も生まれます。

数値の良し悪しやレベル感が直感的に分かりにくい
理学療法士自ら解釈する思考プロセスが必要になる
スコア表示で満足していたユーザーにとっては、患者説明コストが増える可能性がある
情報量が増えるほど、結果体験が難解になるリスクがある

規制への配慮

さらに、本プロダクトは医療機器クラスⅠに分類されるため、サービスとして「診断」を行うことはできません。
そのため、医学的なエビデンスや信頼性を補強しながらも、診断結果のような解釈を誘導する見せ方は避ける必要がありました。

考慮すべき要件

このプロジェクトでは、以下の要件を満たす必要がありました。

医学的な正しさ・信頼性を担保すること
診断ではなく、理学療法士が解釈しやすい体験にすること
納得感があり、患者にも説明しやすい体験にすること
技術制約の中で実装可能であること
営業や導入判断にも耐えうる価値として成立させること

アプローチ

結果体験を刷新するコンセプトの再定義を、PdMと連携して提案し仮説検証を推進していきました。
インタビュー、セグメンテーション、方向性の設定を通じて、プロダクトの価値そのものを見直しを図りました。

検証するコンセプトの方向性

実測値ベースへの変更

スコアベースから実測値ベースへの転換とトレードオフ、プロダクトの価値についてリサーチを推進しました。

指標の拡充

さらに拡充すべき指標について、技術的実現性を考慮しながら検討していきました。

医学的エビデンスの追加

理学療法士や医師にとって納得感のあるエビデンスを、プロダクトの価値と照らし合わせながら精査していきました。

検証プロセス

01
仮説設定
売上停滞の原因を仮定
コンセプトの再定義
02
ユーザー理解
理学療法士・医師への
インタビュー
03
セグメンテーション
利用文脈と
情報ニーズの分類
04
方向性決定
情報アーキテクチャの
再設計

リサーチと主要なインサイト

メインユーザーである理学療法士や決済者である医師に対して、計10回以上のインタビューを行い、コンセプト検証を実施しました。

仮説検証のスピードを上げるための準備

PdMと協働して仮説を整理した上で、検証スピードを高めるために2つの取り組みを行いました。

標準化インタビューシートの作成

Sales/PdM/Designerで再利用可能なインタビューシートを設計。誰がインタビューしても同じ深さの示唆が得られる状態を目指しました。

生成AIを用いたプロトタイピング

仮説検証のスピードを上げるため、生成AIで複数のプロトタイプを高速に作成。短いサイクルで検証を回し、コンセプトの受容性を確認しました。

インタビューから見えた示唆

理学療法士への6〜7件のインタビューとプロトタイプ検証を通じて、既存の結果体験における課題と、改善の方向性を整理しました。

01
実測値ベースのコンセプト自体には価値がある
理学療法士は、実測値ベースの結果に対してポジティブな反応を示した。
AIによる解釈のない数値を表示し、専門性や臨床的な納得感を高める方向性自体は受け入れられた。
02
実測値だけでは不十分で、基準や良し悪しが分かることが重要
数値の意味や比較基準がないと、理学療法士にとっても患者にとっても説明・解釈の負荷が高まる。
03
利用シーンに応じて必要な情報の深さが異なる
限られたリハビリ時間内で患者へ短時間で説明する場面と、理学療法士が深く評価する場面では、求められるビューが異なる。
04
実際の評価は単一指標ではなく、複数指標による包括的な分析
理学療法士は歩行を1つのスコアで判断しているのではなく、全身の状態を複数の観点から統合して評価していた。

プロダクトに求める価値や利用方法のセグメント整理

特に理学療法士へのインタビューから、LocoStepに求める価値や利用方法に対する複数のセグメントへ解像度が高まってきました。

実測値ベースへの変更だけでなく、包括的に全身を評価できる指標の拡充と、利用シーンに応じて理解の深さを切り替えられる情報構造が必要だと判断しました。

デザインの判断

主要な設計

中核的な設計課題は、
・詳細な数値による理学療法士の思考プロセスのサポート
・限られたリハビリ時間内での患者への説明のしやすさ
・信頼性の担保
をどう両立するかという点でした。
指標の拡充については、PdM・MLエンジニアと共に医学的エビデンスを調査し、結果体験の方向性を再設計しました。

4つのスコアベース指標 → 10以上の実測値ベース
頭部や骨盤の動揺、体幹側屈角度など、より専門的な評価に結びつく指標を追加し、既存の4指標から10項目以上へ拡充し、全身を包括的に評価できる構成へ刷新しました。
タブ分け:主要結果ビュー ⇄ 詳細結果ビュー
利用シーンに応じた使い方ができるよう結果画面をタブ分けに。
患者コミュニケーション用患者に説明しやすく、エビデンスの強い3指標を中心とした主要結果ビューと、理学療法士が全身を包括的に評価・解釈するための詳細結果ビューを分離する構造としました。
解釈をサポートするラベル
断結果のような解釈を誘導しないよう配慮しながら、理学療法士が判断の示唆を得やすいよう平均値との比較、基準範囲などの比較ラベルを追加。ユーザーが測定値の臨床的意味を理解し、患者に説明できるようサポートしました。
Previous interface

Redesigned interface

デザインイタレーション

専門性・信頼性・説明のしやすさのバランス 

このプロセスでは、単に画面を整えるのではなく、どの情報をどの順番で見せれば、ユーザーが理解し、説明し、判断しやすくなるかを軸に、ユーザーインタビュー通じて見直しを行いました。

A案

B案

C案

動画と共に結果数値を確認するビュー

全ての結果数値を一度に確認するビュー

電子カルテに近づけたビュー

示唆・反応:
機能が多い、臨床場面において使いづらさあり

示唆・反応:
一覧性の低さあり、患者への説明しづらさにつながる

示唆・反応:
経験の浅い理学療法士にとって、解釈プロセスのコストが高い可能性

実測値を増やすことで専門性は高まる一方、情報量が多くなりすぎ、結果として理学療法士の解釈コストが上がる課題がありました。
そこから、平均値比較などの補助情報を追加し、さらにタブで情報の深さを切り替えられるようにすることで、ユーザーが場面に応じて結果を使い分けられる構成へ改善しました。

横断的なコラボレーション

ユーザーニーズ、技術的制約、医学的的妥当性、実装可能性を整合させるため、複数のステークホルダーと緊密に協業。各ステークホルダーの視点を調整し、プロダクトの方向性を定義・推進しました。

PdM 
営業停滞要因を整理し、改善仮説と優先課題を設定
MLエンジニア
指標や解釈サポートラベルの妥当性・信頼性を議論
ソフトウェアエンジニア
デザイン確定前にSwiftUIの実装仕様を調整・確認
営業
導入提案時にどのような情報が説明しやすいかを整理
薬機法担当
表現リスクや説明可能性を確認
MLエンジニア
改善方針と次フェーズ判断に必要な合意形成を実施

成果

リデザイン後、短期的な導入・商談改善と、長期的な信頼性資産の構築の両方につながる改善となりました。

短期的ビジネスインパクト
リリース後2ヶ月で6件以上の新規導入
次段階進捗率が20%から57%に改善
停滞案件率が57%から5%に減少
次フェーズへのの確度は30%から45%へ改善
長期的・戦略的インパクト
複数の大学研究機関との共同研究を開始
プロダクトコンセプトを包括的な評価体験へシフト
学術論文の基盤を形成
ユーザーの信頼
専門的かつ情報量の多い結果を、理解しやすく信頼できる形 で提示できるようになった
営業経由で、「ここまで改善されているなら導入を前向きに検討したい」という反応を得られた
既存の簡易スコアだけでは不足していた、臨床現場での納得感と実用性を補強できた
理学療法士が患者説明用と専門評価用を使い分けられる構造により、説明負荷の増加を抑えつつ専門性を高められた

振り返り

このプロジェクトで得た学びは、「情報を増やす」ことが信頼の問題の解決にはならなかったという点です。

検討の初期段階では、指標を増やしたり、精度を上げる方向で考えていました。しかし、実際にブレイクスルーにつながったのは、問いを変えたタイミングでした。
「何を見せるか」ではなく、「医師はどんな順序で意思決定をしているか」
データそのものは変えていません。変えたのは、その周りの構造でした。

この経験で得た視点

「どんなデータが存在するか」と「そのデータがどんな意思決定を支えるか」を切り分け、後者を軸に情報設計を行うことで、ユーザビリティを高め本質的な改善につなげられることを、本プロジェクトを通して学びました。

今後の展望・課題

患者の疾患や診療領域において、活用方法や必要な指標がどう変化していくか、顧客獲得のために引き続きユーザー理解を深めていく必要があります。また、動画再生機能を組み合わせた結果画面全体の体験価値をさらに向上させていきたいと考えています。